投稿フォーマット: チャット
2010年1月8日
2018年11月30日
やっと汽車が着いた、やれやれ。何時だね?
いったいどのくらい遅れたんだね、汽車は? まあ二時間はまちがいあるまい。(あくび、のび)おれもいいところがあるよ、とんだドジを踏んじまった! 停車場まで出迎えるつもりで、わざわざここへ来ていながら、とたんに寝すごしちまうなんて……。椅子いすにかけたなりぐっすりさ。いまいましい。……せめてお前さんでも起してくれりゃいいのに。
(耳をすます)ちがう。……手荷物を受けとったり、何やかやあるからな。……(間)ラネーフスカヤの奥さんは、外国で五年も暮してこられたんだから、さぞ変られたことだろうなあ。……まったくいい方かただよ。きさくで、さばさばしててね。忘れもしないが、おれがまだ十五ぐらいのガキだった頃ころ、おれの死んだ親父おやじが――親父はその頃、この村に小さな店を出していたんだが――おれの面つらをげんこで殴りつけて、鼻血を出したことがある。……その時ちょうど、どうしたわけだか二人でこの屋敷へやって来てね、おまけに親父は一杯きげんだったのさ。すると奥さんは、つい昨日のことのように覚えているが、まだ若くって、こう細っそりした人だったがね、そのおれを手洗いのところへ連れて行ってくれた。それが、ちょうどこの部屋――この子供部屋だったのさ。:泣くんじゃないよ、ちっちゃなお百姓さんと言ってね、:婚礼までには直りますよ(訳注:怪我をした人に言う慰めの慣用句)。……(間)ちっちゃなお百姓か。……いかにもおれの親父はどん百姓だったが、おれはというと、この通り白いチョッキを着て、茶色い短靴たんぐつなんかはいている。雑魚ざこのととまじりさ。……そりゃ金はある、金ならどっさりあるが、胸に手をあてて考えてみりゃ、やっぱりどん百姓にちがいはないさ。……(本をぱらぱらめくって)さっきもこの本を読んでいたんだが、さっぱりわからん。読んでるうちに寝ちまった。(間)
おや、ドゥニャーシャ、どうしてそんなに……
どうもお前さんは柔弱でいかんな、ドゥニャーシャ。みなりもお嬢さんみたいだし、髪の格好かっこうだってそうだ。駄目だめだよ、それじゃ。身のほどを知らなくちゃ。
ついでにクワスをおれに持ってきとくれ。
今ちょうど明け方の冷えで、零下三度の寒さですが、桜の花は満開ですよ。どうも感服しませんなあ、わが国の気候は。(ため息)どうもねえ。わが国の気候は、汐しおどきにぴたりとは行きませんですな。ところでロパーヒンさん、事のついでに一言申し添えますが、じつは一昨日いっさくじつ、長靴を新調したところが、いや正真正銘のはなし、そいつがやけにギュウギュウ鳴りましてな、どうもこうもなりません。何を塗ったもんでしょうかな?
毎日なにかしら、わたしには不仕合せが起るんです。しかし愚痴は言いません。馴なれっこになって、むしろ微笑を浮べているくらいですよ。
じつはね、ロパーヒンさん、あのエピホードフがあたしに、結婚を申しこみましたの。
どうしたらいいのか、困ってしまいますわ。……おとなしい人だけれど、ただ時どき、何か話をしだすと、てんでわけがわからない。聞いていれば面白おもしろいし、情じょうもこもっているんだけれど、ただどうも、わけがわからなくってねえ。あたし、あの人がまんざら厭いやじゃありませんし、あの人ときたら、あたしに夢中なんですの。不仕合せな人で、毎日なにかしら起るんです。ここじゃあの人のこと、:二十二の不仕合せって、からかうんですよ。……
お着き! どうしたんでしょう、あたし……からだじゅう、つめたくなったわ。
(わくわくして)あたし倒れそうだわ。……ああ、倒れそうだ!
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